団体貸出



「パンちゃん」
岡村 智子

 

 パンちゃんは、なぜそうよばれているの?
 パンがすきだから? ブー。
 チンパンジーににてるから?ブ、ブー。
 こたえは、生まれつきのくるくるくせっ毛がパンチパーマみたいだからです。
  みんなからあだ名でよばれ人気もののパンちゃんですが、自分ではこのくせっ毛もあだ名も大っきらいでした。
  「このかみがまっすぐになったらパンちゃんなんてよばれずにすむのに。なにかいい方ほうはないかしら?そうだ!」
  水えいぼうをかぶって寝たらかみの毛がペッタンコになるんじゃないかしら。パンちゃんは早そく水えいぼうをかぶり、ウキウキしながらねどこに入りました。
  よく朝、大せいこう!くせっ毛はペッタンコ、まるでヘルメットみたいに頭にはりついています。
  「おはよう。」
  「おはよう、パン……どしたの、その頭?」
  「もう わたし、パンちゃんじゃないから。」
  いつもとちがうふんい気に、だれもパンちゃんのそばに来ようともしません。
  じゅぎょう中に、ペッタンコのかみがムク、ムクとふくらんできました。そして給食の時間、くるくるくせっ毛はもうすっかり元通り。
  「わぁ、いつものパンちゃんだ!」みんながワッとよってきましたがパンちゃんはちっともうれしくありません。
  「あーあ、ざんねん。ほかにいい方ほうはないかしら?そうだ!」
  おせんたくでシーツがパリパリするのは、せんたくのりをつけるからなんだって。あれをかみにぬってみよう。パンちゃんは早そくせんたくのりをベタベタとぬり、ワクワクしながらねどこに入りました。
  よく朝。大せいこう!くせっ毛はパリパリにかたまり、まるでおすしにまくのりのようです。
  今日こそは、と意気ごんで出かけたパンちゃんでしたが、やっぱり給食の時間には、もとのくるくるくせっ毛にぎゃくもどり。
  「パンちゃんはそのかみがたが一番いいよ。」
  うれしそうなみんなにかこまれても、やっぱりパンちゃんはちっともうれしくありません。
  「ああ、もう本当にいやだ。なにかいい方ほうはないかしら?そうだ!」
大人はストレートパーマというのをかけてかみをまっすぐにするってママが言ってた。一体いくらするのかな?パンちゃんは早そくお小づかいからコツコツためたちょ金ばこをにぎりしめ、ドキドキワクワクびよういんへかけていきました。
  「こんにちわ。ストレートパーマはおいくらですか?」お小づかい一年分!これではパーマをかけるのはむりだと、パンちゃんはガッカリすわりこんでしまいました。その時です。
  「いいなあ、そのくせっ毛。」
  頭じゅうかみをくるくるまきつけたカーラーだらけのお姉さんがかがみごしにわらいかけました。
  「わたしはどんなに高いパーマをかけてもそんなくるくるにならないの。うらやましいな。ねえ、店長。」
  「本当にきれいなくせですね。ちょっとこっちに来てごらん。」
  店長さんがきりをふきかけあわをつけると、パンちゃんがむりやりクシでのばしたかみがくるくるりんとふくらんで、ツヤツヤかがやきました。
  「わぁ、かわいい。」
  「ストレートパーマなんてやめて、いつもそうするといいよ。」
  大っきらいなくせっ毛をほめられてパンちゃんはポウッとなってしまいました。かがみの中で赤くなってる子はたしかに、すごくすごく、かわいかったのです。
  「おはよう、パンちゃん。」
  「おはよう!」
  よく朝、いつものように人気もののパンちゃんのまわりにみんながあつまりました。でも、みんなは気づいたのでしょうか?びよういんでならったとおりにしたパンちゃんのかみはいつもよりくるくるで、そのくせっ毛も笑顔も、いつもよりずっときれいにかがやいていたのです。

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