団体貸出



「なみだいけにうかんでごらん」
佐野 橙子

 


   カシオくんは、あさから、ゆううつです。
  きのう、がっこうで、トモキくんが、
  「あそばないよ。」
  っていったから。
  けさ、おかあさんに、
  「トモキくんが『あそばない』っていった。」
  っていったら、おかあさんは、
  「カシオが、口がわるいからきらわれるんでしょ。」
  っていったのです。

 学校に行くとちゅう、
  「がっこうにいきたくないな。」
  って声がしました。じぶんの声でした。もう一回、いってみました。
  「学校に行きたくないな。」
  「だったら、なみだいけにうかんでごらん。」
  ふりむいたら、木の上にカラスがいました。
  「どこにあるの、なみだいけって。」
  「ついておいでよ。」
  カラスがいいました。カラスは、木のえだにとびうつりながら、カシオくんをあんないしました。
  やがて、おかの上につきました。てっぺんに、一本の木がありました。
  「なみだいけに行くには、なみだ川をくだらなくちゃ。」
  カラスがいいました。
  「どこにあるの?」
  「きみがつくるんだ。」
  「どうやって?」
  「きみのなみだで。」
  「ぼく、べつに、なきたくないよ。」
  「かなしかったことを、思い出してごらん。」
  カシオくんは、目をとじました。
  きのう、トモキくんが「あそばない」っていったときのこと。
  けさ、おかあさんに、「カシオが、口がわるいからきらわれるんでしょ」っていわれたときのこと。
  そしたら、なみだが出ました。いちど出たら、どんどん出ました。カシオくんは、おんおん、声を出してないていました。なみだが川になりました。さいしょは、小さな川でしたが、やがて、ごうごうとながれる大きな川になりました。
  カシオくんは、なみだ川をながれていきました。
  とちゅうに一本の木がありました。うさぎの子がしょんぼりと、木の下の立っていました。
  「なみだいけに、うかんでごらん。」
  カシオくんは、大きな声でいいました。
  うさぎの子も、なきだしました。やがてなみだは川になり、うさぎの子はながれてきました。
  また一本の木がありました。ねこの子がしょんぼりと、木の下に立っていました。
  「なみだいけに、うかんでごらん。」
  カシオくんは、大きな声でいいました。
  ねこの子は、なきだしました。やがてなみだは川になり、ねこの子もながれてきました。
  うさぎも、ねこも、カシオくんも、ながれて、ながれて、なみだいけにつきました。まわりを森にかこまれた、小さな、しずかな、いけでした。
  カシオくんは、ぽっかりといけにうかびました。うさぎの子もうかんでいました。ねこの子もうかんでいました。うかんでいるうちに、だんだんからだがかるくなってきました。
  カシオくんは思いました。あした、学校でトモキくんに言おうかな。
  「でも、あそぼうよ。」
  って。

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