団体貸出



「しかたないのんとちがうねん」
いなば みちお

 

みちたは小学4年生
今、まんいん電車の中。
学校まで電車で一時間かかるんだ。
なぜ、そんなに遠いの?

みちたは耳がきこえないんだ。
耳がきこえない子どもたちの学校に行っているんだ。
「ろう学校」っていうんだよ。
ろう学校は、手話がいっぱい!
先生も友だちも手話で楽しくお話しているよ。

「ただいま。おねえちゃん、帰っとるの。いっしょに遊ぼ。」
「ごめん。今から友だちの家に遊びに行くねん。」

「なんや。じゃ、一人で公園へ行くわ。」
みちたは、遠くの学校へ行ってるから、家の近くに友だちがいないんだ。

みちたは一人でブランコ遊び。
すぐそばで家の近くの子どもたちはドッジボール。
その中のひとりが、みちたに気づいたよ。

「お一い、いっしょにドッジやれへんか? がいやがたりへんねん。」
みちたはきこえないから、それに気がつかないよ。
「なんや、しらんかおしとるわ。ほっとこか。」

「あ、あの子、耳がきこえへん子やで。」
女の子が言ったよ。
「どうやって話すんや。」
「いっぺんだけ、紙に書いて話したことあるわ。」

「学校でちょっとだけ手話、習ったな。あいつ、できるんか?」
女の子は、
「何かに書いて話してみ。」と言ったよ。

みちたに近づいて、木のえだで地面に字を書いたよ。
ちょっとどきどきしたよ。
「手話、できる?」
みちたはびっくりしたけど、
「できるで!」と答えたよ。

「できるんか。耳、きこえへんから、しかたないもんな。」
それを見て、みちたは…

「ちがうで、ちがうで。しかたないから手話やっとんのとちがうで。」
「え? 耳がきこえへんからやろ。」

「手話はぼくの大切なことばなんや。
しかたないのんとちがうんや。できる人が少ないだけなんや。」
「……。」

それから数日後。
公園で遊んでいる子どもたちの中に、みちたがいたよ。
「おい、これ、手話でどうすんねんや。」
「こうすんねんや。」

はじめから手話ができなくてもいいんや。もっと知りたい、話したいという気もちでいいんや。
いっぱい話したい、遊びたい、けんかもしたいんや。
時間はかかるけどな。

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