「コーヒーショップ悪魔で働きませんか。」
それがワタクシと ”コーヒーショップ悪魔”との出会いでございました。
ワタクシは、お店のドアをドキドキしながら開けました。
カランカラン。
「すみません。表のチラシを見たのですが。」
中は薄暗く、コーヒーの香りがしております。
「どなたかいらっしゃいませんか。」
恐る恐る入って行くと、突然、
「おまえ、カラスか。」
カウンターの中から低くて太い声がしました。
ワタクシは思わず後退りいたしました。声がした方に目をこらしますと、まっ黒い悪魔が赤い目をしてこちらを見ておりました。
「やっぱりダメですよね。カラスが働くお店なんて気持ち悪いですものね。体中まっ黒ですし。」
すると悪魔は、
「ふん、今日から頼む。」
ぶっきらぼうにそう言うと、コーヒーカップをみがき始めたのでした。
「ありがとうございます。」
こうしてワタクシは、”コーヒーショップ悪魔”でめでたく働く事になったのでございます。
そうはいっても、お客様は、なかなかやって来ませんでした。おかげでお店の中は、ワタクシによって
ピカピカにみがき上げられたのでございます。そんな中、一つ気がついた事がございました。悪魔は、
たまにそこにいることを忘れてしまうほどに無ロな方でございました。
そして、ワタクシにとって初めてのお客様がいらっしゃったのでございます。
カランカラン。
「い、いらっしゃいませ。」
振り向くと、そこにはぽつんと大きなオオカミが立っておりました。
「道に迷っちゃって。」
オオカミは、言いました。
「それは大変でしたね。さぁさぁ、どうぞどうぞ。」
オオカミは、背中を丸めて座りました。
「何にされますか?」
オオカミは、だまっております。
「といっても、コーヒーしかございませんけど。」
ワタクシは、笑いました。
「ボクの事、恐くないの?みんなとても恐がるんだ。」
「はい、恐いです。」
ワタクシは答えました。
「やっぱり」
オオカミは、うつむきます。
「でも、ここには、もっと恐い方がいらっしゃいます。」
そう言ってカウンターの中を指さしました。中には、悪魔が赤い目でじっとこちらを見ております。オオカミは、ビクッと体をふるわせると言いました。
「ほ、本当だ。」
「ですよね。」
オオカミとワタクシは、顔を見合わせて笑いました。すると悪魔は、コーヒーカップをオオカミの前に置
きました。そして、手の中からチョコレートのかけらをポンと出したかと思うと、コーヒーの中に入れました。
「熱いうちにどうぞ。」
悪魔は低い声で言いました。オオカミはチョコレートの入った温かいコーヒーを飲むと、しくしくと
泣き始めてしまいました。甘いチョコレートの香りがするお店の中でワタクシは、困りながらオオカミ
の背中をなで続けたのでございます。オオカミの体は、思ったよりもずっと柔らかでございました。
オオカミが無事に帰ったお店の中を、ワタクシはぼんやりながめておりました。
「カラス、ここに座れ。」
カウンターの中から悪魔がワタクシを呼んでおります。
「は、はい。」
席に座りますと、いれたてのコーヒーの入ったカップが置かれました。
「熱いうちにどうぞ。」
「は、はい。いただきます。」
ワタクシはそのコーヒーを飲んだとたんに涙がポロポロあふれて止まらなくなってしまったので
ございます。それを見た悪魔は、おろおろしながらも頭をなでてくれました。
「お、おまえも黒いがオレの方がもっと真っ黒だぞ。」
ワタクシは、泣きながら笑いました。
「ですよね。」
頭をなでてくれている悪魔の手は、とても温かで、
コーヒーはとてもおいしゅうございました。
カランカラン。
「いらっしゃいませ。”コーヒーショップ悪魔”へようこそ。」
ワタクシは、今日もせっせと働きます。
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