|   もえちゃんは、さんぽしている犬を見るたびに、犬がほしくてほしくてたまりません。  「いいおはなしがあるわよ。」 
                          ある日、おかあさんが、学校からかえったもえちゃんにいいました。
 「おむかいのおばあちゃんがね、入いんすることになったので、もえちゃんにガンたを飼ってほしいんだって。よかったわねぇ。」
 ガンたは子犬です。きょ年、こうつうじこにあってうしろ足を一本なくし、とんとんとんと、はねるようにあるきます。
 「ガンたかぁ……」
 「あら、うれしくないの?」
 「さんぽしにくいもん」
 いいえ、ほんとうは、ガンたはかっこわるいとおもいました。名まえも気に入りません。
 「こうえんであそんでくる。」
 もえちゃんは、にげるようにしてげんかんから出ていきました。すると、おばあさんとガンたが、すこし先をさんぽしています。
 もえちゃんは、気づかれないように、あとをつけていきました。
  ガンたが、みちばたでウンチをはじめました。ふんばっている一本足が、ぶるぶるふるえています。 とうとう、すとんとしりもちをついてしまいました。
 立ちあがり、かまえます。
 また、しりもちをつきました。
 「ガンた、しっかりぃ!」
 もえちゃんは、にぎりしめたげんこつをふりまわしました。
 ウンチがおわったとき、もえちゃんの手はあせでべとべとでした。
  おじいさんにひかれた大きな犬が、ガンたとすれちがいざま、おそいかかってきました。ガンたは、ひめいをあげ、ころがるようににげまわっています。
 「ガンたをたすけて!」
 もえちゃんは、目をつぶり、手をあわせました。
 おじいさんとおばあさんが、二ひきをひきはなすと、もえちゃんは、ほっとしてむねをなでおろしました。
  
                          おばあさんとガンたが、じんじゃにやってきました。もえちゃんは、ガンたが石だんを、一だん一だん一生けんめいのぼっていくのを、じいっと見つめました。
 のぼりきったとき、もえちゃんのこころは、じいんとなりました。
 ガンたって、がんばりやさんだぁ。かっこわるくなんかないよ。
 
  おばあさんが、おまいりをすませてガンたと石だんをおりてくると、もえちゃんは、おばあさんにはしりよりました。「おばあちゃん、ガンたのつな、もたせてくれる?」
 「ああ、いいよ。」
 もえちゃんは、つなをつかみました。ガンたのいのちが、つなをとおしてつたわってきます。
 あるき出すと、ガンたがぐいぐいひっぱりました。
 「ガンた、そんなにひっぱらないで!」
 名まえをよんで、くすりとわらいました。
 ガンたって、がんばりやさんにぴったりの名まえです。
 もえちゃんは、くるりとふりむきました。
 「おばあちゃん、ガンたをちょうだい」
 「おお、飼ってくれるかい。」
 おばあさんのかおが、ぱあっとかがやきました。
 「ガンた、はしるわよ!」
 もえちゃんは、うれしくってガンたとかけ出しました。
 
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