団体貸出



「オトくんはともだち」
船山 その子

 

ぼくは保育園の年中さん
お友だちもたくさんいる
サッカーやドッヂボールをやったり、ケンカもしちゃうけど、それでもとってもなかよしな
んだ

6月になって、ぼくらのクラスに新しい友達がきた
ぼくたちと同じ歳だって先生が言ってたけど
とっても小さい ボクの弟より、ずっと小さい

お話もできない
言えるのは、「ママ!」だけ
一日中、「ママ、ママ」って言っている

おと君は、保育園に毎日こない
くるのは、月曜日と、水曜日と、金曜日だけ
あとのひは、おうちでゆっくり休んでるんだって

おと君は、保育園にバギーにのってくる
とっても家が近いのに、それでもバギーにのってくる
なんだか赤ちゃんみたい

そして、やっぱり、おと君て何か変
だって、ずっとニコニコ笑ってるんだよ

ぼくたちは、とっても不思議に思ったから
先生に聞いてみた
「なんだか、おと君、ちょっと変だね」
そしたら先生がみんなに話をしてくれた

「おと君はお母さんのお腹にいるときにケガをしてしまったのよ だから 小さく生まれ
てしまったの そして、みんなより、ゆっくり大きくなっていくのよ」(注)

秋になった もうすぐ運動会
ぼくたちは、みんなでリズムダンスをやるんだ
おと君は毎日保育園に来ないから ダンスを覚えていない
それどころか、途中ですわりこんだり
どっかに歩いていっちゃったりするんだ
だから、僕たちは考えた
おと君のとなりでダンスする人は
おと君と手をつなぐって そうしたら、最後までちゃんと一緒に並んでいられるんだ
ダンスはできないけど、おと君も楽しそう
「最後まで一緒にいようね」って言ったら
とってもうれしそうな顔をした
なんだか僕たちもうれしい気分になった

冬になると おと君はあんまり保育園にこなくなった
体が丈夫じゃないから
ちょっとかぜをひいただけでも すぐに熱が高くなって入院しなくちゃいけないんだって
だから、みんなでおとくんの家にむかって、さけぶことにした
「おとくんはやくよくなってね」
返事はなかったけど
きっと聞こえたと思う
だって次の日 とっても久しぶりにおと君がきた
ぼくはちょっとセキがでてるから
なるべくおと君のそばに行かないようにしようと思った
でもおと君はぼくの近くにきてしまう
「ダメだよ」
っていうととっても悲しそうな顔になる
ぼくだっておとくんと遊びたいんだけど
おと君のためなんだ
だって、ぼくはおと君が大好きなんだもん

春になった
ぼくたちは、もうすぐ年長さんになって、ちょっとおにいさんになる
年長さんになると
いろんなお手伝いをするようになるんだ
花だんの水やり当番や
インコのピーコちゃんのエサやり
いろんなことがあるんだよ
おと君もちゃんとできるかなぁ
もしかしたらできないことがあるかもしれない
だったら、おと君の当番の日は
みんなでいっしょにやることにすればいい
だっておと君はたいせつな友達なんだから
何だか、ぼくたちはいつもおと君のことを考えてる
おと君は、僕たちがひとりでできることができない
でも、ちょっと手を貸してあげるとちゃんとできるんだ

年長になって、おと君も変わった
保育園に歩いてくるようになった
ちょっとだけど、ぼくたちとお庭であそべるようにもなった
「ママ」のほかに
「おはよう」「どうぞ」「ありがとう」っていろんなことが言えるようになった
おと君も
ゆっくりゆっくりだけど
いろんなことができるようになってるんだね

でもね
年長になっても変わらないことがあるんだ
おと君はいつも笑っている
だからぼくたちも楽しい気分になって
みんな笑顔でいられるんだ
おと君はぼくたちの大切なお友だち
いつまでも仲良しでいようね
やくそくだよ
おと君




(注)読みがたりをされる皆様へ
この作品は、ダウン症の子どもと周りの子ども、そしておとなの関わりについて書かれたも
のです。ここではダウン症について説明するために、「お母さんのお腹の中でケガをした」
という表現をしています。幼児期の子どもたちにとって医学的な説明では理解がむずかしい
ため、子どもたちの生活の中のわかりやすい言葉を使って、ダウン症を伝えようとしていま
す。一つの参考としてお考えください。


ダウン症(正式にはダウン症候群)とは…
先天性染色体異常症の一種。ヒトの二一番染色体の過剰によって起きる発達・成長の障害で、
先天性心疾患を伴うことが多い。    「広辞苑 第五版」