生涯学習大阪計画 ~自律と協働の生涯学習社会を目指して~

はじめに 第1章 第3章 第4章 第5章

第 2章 生涯学習の現状と課題

1  生涯学習を取り巻く状況

(1)生涯学習のひろがり
・昭和40年(1965年)に、ユネスコの「成人教育推進国際委員会」においてポール・ラングランが、生涯にわたってさまざまな場や機会を通して行われる教育を統合してとらえる「生涯教育」の考え方※ を発表してから40年が経とうとしています。「生涯教育」の考え方も、学ぶ側から主体的にとらえる「生涯学習」へと移ってきました。また単に学ぶだけでなく、学んだことを社会に活かし、まちづくりに結びついた取組みも数多く見られるようになってきました。

(※ 「生涯教育」の考え方...昭和40年(1965年)ユネスコの「成人教育推進国際委員会」においてフランスのポ-ル・ラングランが「生涯教育」の概念を発表した。そこでは「生涯教育」とは、年齢に制限なく一生を通じて行われるものであり、今後は、学齢期を過ぎても何回でも学習しなおすことができる生涯学習社会に移行するという考え方が示された。そのなかで、学校教育は教育のひとつの段階としてとらえられ、生涯にわたって学んでいける自己教育力を養う役割を期待されることになった。また、今までの教育方法に縛られず、学校のみならず、地域、家庭、テレビ・ラジオ、図書館などで行われるさまざまな教育機会を統合し、一人ひとりの個性に合わせた幅広い教育が可能な社会であるとされている。)

・我が国においても、昭和56年(1981年)に中央教育審議会答申「生涯教育について」が出されて25年を経ようとしている現在、「生涯学習」は着実に普及し、各自治体においても約9割に生涯学習・社会教育関係部課が、また約半数に庁内横断的な生涯学習推進組織が設置されるなど、生涯学習振興のための体制や学習支援のしくみが整備されてきています。

・大阪市内においても、学習機会の提供主体として、市民学習センターなどの生涯学習施設※ のみならず、各部局が設置した各生涯学習関連施設※ 等、さらにはNPOや高等教育機関、民間教育機関等が幅広く存在しています。

(※生涯学習施設...生涯学習センター、公民館、博物館、図書館、青少年施設、スポーツ・文化施設など、社会教育関係法令等で示された施設のこと。

※生涯学習関連施設...生涯学習センター、公民館、博物館、図書館、青少年施設、スポーツ・文化施設など、社会教育関係法令等で示された施設を生涯学習施設と呼ぶのに対して、市民の学習を支援する施設全般を意味する。)

・また、身近な地域社会では、生涯学習ルーム事業をはじめとした「地域に開かれた学校づくり」が進み、児童の放課後活動の支援や生涯スポーツ・文化などの活動が広がっています。


(2)高等教育機関や民間教育機関、NPOの動向

・放送大学※ や単位制高等学校に加え、全国的に多くの大学や大学院が社会人の受け入れを行っています。大都市圏を中心として、社会人の学習に便利な都心に、大学や大学院が専用施設を置く事例も増えてきています。大阪市内では、大阪市立大学が梅田に社会人大学院を開設したのをはじめ、20を超える関西圏の大学が社会人向けにサテライトキャンパス※ を設置しています。

(※放送大学...生涯学習の時代に即応し、テレビ・ラジオの専用の放送局を開設し、放送等を効果的に活用した新しい教育システムの大学教育を推進することにより、レベルの高い学習の機会を広く提供することを目的として昭和58年度(1983年度)に設置された。
学習方法は、テレビやラジオによる授業と、印刷教材による自学自習とレポート提出による通信指導を主にしており、学習センターで面接指導や単位認定のための試験などが行われる。)
(※ サテライトキャンパス...学生のみならず、社会人や一般市民の受講生のために、大学構内とは別に都市の中心部に設けられた教室のこと。大学の教育研究の振興や、大学院や公開講座などの社会人教育の実施、地域貢献活動の推進拠点、民間企業・研究機関との連携強化、大学の情報発信などを目的としている。複数の大学が共同で設立して、単位互換制度の推進を図る事例もある。)

・民間の生涯学習機関である専門学校・カルチャーセンターやスポーツ施設は、ここ数年、漸減しているものの、10年前と比較すると施設数が相当増加しています。しかし、カルチャーセンターの経営が成り立つためには一定規模の人口が必要であるといわれており、大阪市内の立地も、利便性のよいところに集中しています。また、そこで提供されている内容は、趣味や体育・レクリエーションに関するものが多く、環境問題や人権問題、少子・高齢社会問題、あるいは家庭教育、職業知識の向上といった社会的課題、現代的課題に関する内容は1割程度となっているのが現状です。

・この他、NPOについては、認証数の増加や社会活動への積極的な参画も顕著になっています。平成17年(2005年)6月現在で、全国で約22,000、大阪府では約1,800のNPOが、保健医療・福祉、社会教育、まちづくり、環境、文化、芸術、スポーツ、人権、国際協力、子どもの健全育成など広範な分野において活発な活動を展開しており、新たに公共的なサービスや学習機会を提供する担い手となってきています。

【内閣府国民生活局調べ】

(3)「市民力」の向上と生涯学習

・地域社会においてこれまで、ともすれば行政課題として取り組まれることが多かった高齢者福祉、子育て、防犯、環境、まちづくりなどについて、市民が主体となり課題の解決に当たろうとする動きが、近年、各地で起こりつつあります。

・これは、地域社会でできること、また地域社会が担うことが何よりも課題解決に対して有効であるということから、市民が主体的に参画するしくみをつくり、いきいきと暮らしやすい地域社会、「持続可能なまちづくり」※ を進めることをめざした動きといえます。

(※ 持続可能なまちづくり...今の世代の利益だけではなく、未来の世代の利益のことも考えて行われるまちづくり。昭和62年(1987年)の国連の「環境と開発に関する世界委員会」(通称「ブルントラント委員会」)の報告書のなかで、「持続可能な発展とは、未来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在世代のニーズを満たすこと」という定義が提案されてから、今後の社会のあり方を示す重要な概念となった。特に、環境問題の観点から使われることも多いが、生産や消費、福祉、公平・公正といった要素をうまくかみ合わせ、「子や孫のような後の世代の人々も快適に暮らせる」まちをつくることで、将来世代も含めて生活の質が向上していくまちづくりをめざす概念である。)

・近年、施設や道路などの有形の社会資本ではなく、人々の間の「信頼」「つきあい」「社会参加」などの社会的ネットワークと相互支援・協力など、無形の社会的資産・社会関係資本(「ソーシャル・キャピタル」※ )が豊かになると、地域社会におけるボランティア活動やまちづくりへの参加率が高まり、反対に犯罪の発生率が低下するなどの変化をもたらすことが、内閣府の調査でも明らかになっています(内閣府国民生活局編「ソーシャル・キャピタル」平成15年(2003年))。そして、人々が生涯学習を通じて、出会い協力し、「教育コミュニティ」づくりを推進することは、この「ソーシャル・キャピタル」を高めるために大きな役割を果たしています。

(※ソーシャル・キャピタル(Social Capital)...社会的なつながり(ネットワーク)と規範から、生まれる信頼関係・ネットワークなどをさすことば。地域社会のなかで、人々の協調的な行動を活発にすることにより、社会の安心・安定、成長や持続などの各面に好ましい効果がもたらされるとされている。内閣府が平成15年(2003年)に行った調査では、ボランティア活動をはじめとする市民活動の活性化が、ソーシャル・キャピタルを高めていくような関係があるという可能性を指摘している。)

・「教育コミュニティ」づくりとは、地域社会の教育資源※ を学校教育に導入するなどにより、開かれた学校づくりを進め、子どもたちの「生きる力」を育むとともに、学校・家庭・地域社会が一体となった総合的な教育力を発揮し、地域社会における人と人とのつながりによって子どもを育むことをめざすというものです。

(※ 教育資源...生涯学習関連施設や、学校、民間教育機関などのほか、PTAやボランティア、指導者などの人的資源、さらに商店街、地場産業、公園、神社・寺院、史跡などの文化的・歴史的資源や、河川等の自然環境、学習情報なども含まれる。)

・大阪市では平成14年度(2002年度)から、「小学校区教育協議会-はぐくみネット-」事業として取組みを進めています。この取組みは、身近な地域社会を中心に生活を送ることが多い子どもたちや育児期の保護者、高齢者、障害のある人をはじめ、だれもが、生きがいをもって地域社会のなかでいきいきと活動できる生涯学習を基軸としたまちづくりの根幹につながる施策といえます。

・また、不登校や安全確保など子どもをめぐる問題の解決に関しても、学校での取組みはもとより、「教育コミュニティ」づくりを推進し、「地域の教育力」を向上させることが重要だといえます。



2  大阪市における生涯学習の現状と課題

(1)社会構造の変化と人口構成の推移

・近年、社会のグローバル化や高度情報化の進展、地球規模での環境問題や資源・エネルギー問題の深刻化をはじめ、少子・高齢社会の到来、バブル経済崩壊以来の長期にわたる景気の低迷による雇用問題など、社会構造の著しい変化がみられます。また、社会の成熟化に伴い、人々の価値観やライフスタイルが多様化するとともに、人生にとって大切なものとして、心の豊かさや生きがいを重視する人々の増加が見受けられます。

【総務省統計局「国勢調査」平成12年(2000年)】

・平成17年(2005年)国勢調査によれば、日本の総人口は戦後初めて減少し、1億2775万人となり、前年の推計人口に比べ約2万人減少しました。人口動態統計でも、初めて出生数が死亡数を下回る自然減となっており、「人口減社会」が到来したことが確認されています。

・また、平成4年(1992年)の「前計画」の策定以降、大阪市の人口構成は大きく変化してきています。平成2年(1990年)と平成12年(2000年)の大阪市の年齢別人口を比較すると、年少人口(15歳未満)の総人口に占める割合が2.5ポイント減少しているのに対し、高齢者人口(65歳以上)の割合は5.4ポイント増加しています。全国平均と比べて、年少人口は2ポイント上回っているものの、高齢者人口はほぼ等しく、明らかな少子・高齢化傾向にあります。大阪市では、出生数が死亡数を上回る自然増の傾向が長く続いていましたが、平成16年(2004年)に戦後初めて自然減となり、今後はこうした自然減傾向が続くと予想されます。さらに、計画期間中に、第1次ベビーブームに生まれた「団塊の世代」が高齢期を迎えることから、高齢者人口の割合が、平成12年(2000年)の17.1%から平成27年(2015年)に24.9%と増加し、特に75歳以上の後期高齢者の大幅な増加が見込まれています。

・転出・転入の状況では、進学・就職時期にあたる15~24歳の層で転入超過であるのに対し、子育て層と考えられる30~39歳の層や9歳以下の子どもの市外転出の割合が高くなっています。定年退職を迎えた層については、医療・福祉・教育や利便性を求めて、都心回帰が増えていることが指摘されています。また、単独世帯、特に高齢単独世帯の割合が高いほか、外国人登録者数は大阪市の人口の約4.6%を占めており、政令市をはじめとする大都市のなかでは最高値となっています。

【いずれも総務省統計局「国勢調査」平成12年(2000年)】

・労働力人口については、平成7年(1995年)には64.6%に達していた労働力率が、平成12年(2000年)には60%を下回り、まもなく、「団塊の世代」が定年退職する時期を迎えており、これらの社会構造の変化をふまえて、今後の生涯学習施策を進めることが重要です。


(2)市民の意識・ニーズの変化

・「大阪市における生涯学習についての世論調査(以下「大阪市世論調査という」)」(平成15年(2003年)実施)によれば、「一定期間継続した学習を行ったことがある」という市民が昭和62年(1987年)調査時には37.7%であったのが、平成15年(2003年)には46.8%に増加しています。また、「今後学習や活動を行いたい」と希望する市民は76.7%にのぼっており、市民の学習意欲は高まってきているといえます。

【いずれも「大阪市世論調査」平成15年(2003年)】

・学習方法については、「自分ひとりで通信教育やパソコンなどで勉強」が、20.2%と最も多くなっており、以下「スポーツや体力づくりのクラブなどに参加」が16.7%、「自主的なグループやサークル活動に参加」が10.0%、「公共機関が主催する教室や講座に参加」が8.6%と続いています。昭和62年(1987年)調査時とは、選択肢が若干異なっているため厳密な比較はできませんが、前回結果では、「自分一人で、個人教授、図書などで」と「通信教育」を合わせると41.8%にもなっており、今回の調査では「自分ひとりで」としたものがかなり少なくなっています。

・今後利用したい学習場所として、「市内の中心部にある大きな学習施設」をあげる市民が27.2%であるのに対し、「区役所・区民センター」や、「地域にある図書館や老人センター・福祉センター」、身近な「小学校や中学校」などでの学習を希望する市民は40%前後にものぼっています。また調査の結果、生涯学習関連施設について「知っているが利用したことがない」市民が、「利用したことがある」市民を上回っていることも明らかになっており、今後は、各施設ともより多くの市民に対して効果的な広報を行うなどの取組みが重要です。

【いずれも「大阪市世論調査」平成15年(2003年)】

・また、「趣味・教養から資格取得まで幅広い学習機会の提供を希望」が55.0%、「生涯学習の場の整備」が44.6%、「生涯学習についての情報提供・学習相談の充実」が38.2%など、市民が学習したいときに学べる環境づくりや、地域社会における生涯学習のための環境づくりへの支援・協力に対し、高い期待が寄せられていることからも、市民に身近な場所での学習環境の整備や学習支援施策の拡充がいっそう求められています。

・さらに、5年ごとに、市民が1日の生活時間をどのようなことに使ったかを調査する「社会生活基本調査」において、「義務教育や社会人の職場研修を除き、パソコンの情報処理、外国語、芸術・文化、人文・社会・自然科学、語学や職業資格・時事問題・家庭教育」などの「学習・研究」に取り組んだ人の割合をみると、大阪市は、昭和61年(1986年)には政令市平均と10ポイントあまりの差があったものの、平成3年(1991年)、平成8年(1996年)とその差はかなり小さいものとなり、平成13年は統計の取り方が変わっているので単純には比較できないものの、全国平均を上回る水準となっています。

【厚生労働省「社会生活基本調査」昭和51年(1976年)~平成8年(1996年)※ 】

(※ 厚生労働省「社会生活基本調査」...「社会生活基本調査」は、市民の1日の生活時間の配分及び自由時間等における主な活動(「インターネットの利用」「学習・研究」「スポーツ」「趣味・娯楽」「ボランティア活動」「旅行・行楽」)を調査したもので、昭和51年(1976年)の第1回調査以来5年ごとに実施されている。平成8年(1996年)までは、各都道府県別および政令市ごとの集計が実施されていたが、次の平成13年(2001年)からは、政令市ごとの集計が実施されなくなり、本計画では、平成13年(2001年)については、大阪府のデータを使ってグラフにまとめている。)

・今後も、社会構造の変化や社会の成熟化、複雑化の度合いが深まると見込まれるなか、市民一人ひとりが自分にあった形で、さまざまな課題解決に向けて、主体的に情報を選択し、新たな知識・技術を身につけることが必要です。「大阪市世論調査」をはじめ市民の意識・ニーズを十分ふまえたうえで、市民の学習活動を支援し、21世紀の大阪のまちづくりに資する生涯学習を推進することが求められています。



(3)人権教育の推進状況

・大阪市においては、だれもが自分らしく心豊かに過ごすことができるよう、お互いの人権が尊重される社会の実現をめざして、平成12年(2000年)、「大阪市人権尊重の社会づくり条例」を施行し、市政を推進しています。

・平成4年(1992年)に策定した「前計画」では、計画のテーマに「人間尊重の生涯学習都市・大阪をめざして」を掲げ、生涯学習推進の基本的視点の第一に「人権の尊重」を位置づけるとともに、重点計画の「同和問題の解決に向けた生涯学習施策の推進」のもと、これまで人権教育の充実、識字施策、青少年育成、人権啓発などさまざまな取組みを進めてきました。

・また、「国際人権都市大阪」の実現を目標として平成9年(1997年)に策定した「大阪市人権教育のための国連10年行動計画」については、「人権教育のための国連10年」(1995~2004年)(以下「国連10年」という)の中間年にあたる平成12年(2000年)に、それまでの取組みを見直し、以後の方向性を定めるものとして「大阪市人権教育のための国連10年後期重点計画」(平成13年(2001年))を策定し、生涯学習との連携を通して、すべての人に開かれた学習機会の充実、学習教材の整備など、市民の主体的な活動を促進するための全庁的な取組みをさらに推進してきました。

・平成12年(2000年)には、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」(「人権教育・啓発推進法」)が策定され、大阪市でも平成14年(2002年)には「人権教育・啓発に関する基本計画」(「人権教育・啓発基本計画」)を策定し、継続的な取組みを進めています。・一方、国連においては、それまでの基本的人権の考え方に加え、新たに提起された「人間の安全保障」※ という概念により、「人間の安全保障委員会」が、平成15年(2003年)に最終報告書「人間の安全保障を直ちに」を提出しています。また、平成17年(2005年)からは「国連・持続可能な開発のための教育の10年」とされており、環境問題や貧困、人権、女性差別、戦争・紛争など、さまざまな課題に向き合い解決していく力を「参加」という学習プログラムを通して育む、「持続可能な開発のための教育」に取り組むこととなっています。

(※人間の安全保障...紛争や自然災害、貧困、人権侵害など人間の生命や安全を脅かすさまざまな地球的規模の課題から、人間の生命、身体、安全、財産を守ること。)

・また、「人権教育のための国連10年」に引き続き、平成17年(2005年)からは、人権文化の発展を促進することなどを目的とする「人権教育のための世界プログラム」が取り組まれ、その第一段階である最初の3年間では、初等中等学校制度における人権教育の推進が取り組まれることとなっています。
・平成17年(2005年)、大阪市は、「国連10年」の取組みの成果と課題に基づき、国連で採択された「世界プログラム」の趣旨や我が国の「人権教育・啓発推進法」などをふまえ、「大阪市人権教育・啓発推進計画」を策定しました。この計画では、「総合的な人権教育・啓発」、「態度や行動へ結びつく人権教育・啓発」、「交流を促進し、コミュニティづくりをめざす人権教育・啓発」を基本的な方向とし、生涯学習との連携を通して、すべての人に開かれた学習機会の充実や、学習教材の整備など、市民の主体的な活動を促進するため、多様な取組みを進めています。

・しかしながら、現在も同和問題、外国籍住民や障害のある人をめぐる問題、高齢者・子どもをめぐる問題、男女共同参画※に関わる問題、HIV感染者やハンセン病回復者等の人権問題に加え、高度情報通信社会の進展にともなうプライバシー保護の問題など、新たに生起している人権問題の解決に向けて取り組むべき多くの課題があります。そのため、これらの課題の解決に向けて、市民の理解と認識をさらに深める総合的で体系的な人権教育・啓発の推進、また、人権尊重の視点に立った生涯学習の推進に取り組むことが極めて重要な課題となっています。

(※ 男女共同参画...男女が、個性と能力を十分に発揮する機会が確保されることにより、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画し、かつ、ともに責任を担うこと。)


(4)「地域」の生涯学習支援システム

・大阪市では、「前計画」において、全市に「広域」「ターミナル」「地域」の3つの学習圏を設け、それぞれの学習圏ごとに、生涯学習の中核施設である総合生涯学習センター、拠点施設である市民学習センターを開設し、「地域」においては、小学校を拠点とした生涯学習ルーム事業を展開してきました。これらの3つの学習圏を基本として、学習圏ごとに市民のだれもが必要に応じて、いつでも、どこでも学べるよう、ハード・ソフト両面から学習環境(システム)を整備することにより、生涯学習社会に向けた全市的な生涯学習支援システムを構築してきました。

①小学校区における現状
ア)生涯学習ルーム事業
・生涯学習ルーム事業は、地域社会における生涯学習活動の拠点として、小学校の特別教室等諸施設を活用し、身近な場所で自主的な文化・学習活動や交流の場と、多彩な講習・講座等、学習機会の提供を図ることを目的としています。平成元年度(1989年度)より順次開設し、平成16年度(2004年度)には市内全市立小学校296校での実施に至っています。

・また、平成5年度(1993年度)から地域社会における生涯学習を推進するコーディネーターである生涯学習推進員を養成し、平成17年度(2005年度)には、1,066名が生涯学習ルーム事業の企画・運営に携わっています。生涯学習推進員のアンケートからも「地域の中で年代が違う多くの人と出会えた」「参加者に喜んでもらえた」「自分自身も成長できた、達成感がある」など、地域社会でいきいきと活動している様子がうかがえます。

・生涯学習ルーム事業では、学習のきっかけづくりとして実施する「主催講座」および「自主運営の講座」をあわせて、年間に1,665講座が開設され、延べ約40万人が参加しています(平成16年度(2004年度)実績)。講座の内容としては、手芸・書道・生花・コーラス・陶芸・民謡・健康体操などの他、日本語・多文化共生・手話・福祉・環境・情報・子育てなど現代的・社会的課題に取り組む事例も増えてきています。

・また、「親子工作教室」「おとなと子どものコーラス」「カルタ大会」など、生涯学習ルーム事業を通じて、子どもとおとながともに学び地域社会の文化に親しむなど、多様な交流が生まれています。このように、地域社会におけるさまざまな世代の市民が「まなび」を通じてつながっていくことが、「教育コミュニティ」づくりの重要な基盤となっているといえます。

イ)「小学校区教育協議会-はぐくみネット-」事業

・平成14年度(2002年度)から、「地域に開かれた学校づくり」を進め、学校・家庭・地域社会が一体となって子どもたちの「生きる力」を育むとともに、地域社会における人と人とのつながりによって子どもを育む「教育コミュニティ」づくりを推進することを目的として、「小学校区教育協議会‐はぐくみネット‐」事業(以下「はぐくみネット」という)を実施しています。

・「はぐくみネット」の運営については、市民ボランティアである「はぐくみネット」コーディネーターを中心に、生涯学習ルーム事業、学校体育施設開放事業、児童いきいき放課後事業の各運営委員会・実行委員会をベースに、PTA等地域社会の諸団体や保護者、学校関係者で構成する協議会を設置しています。

・「はぐくみネット」では、学校教育や地域社会の生涯学習・生涯スポーツ等の情報を掲載した情報誌の発行や、学校教育にかかわるボランティアの導入、「見守り隊」など子どもの安全を見守る取組み、休日や放課後に子どもとおとながともにまなび交流する場の拡充を促進するなどの活動を行っています。

・平成16年度(2004年度)実績としては、実施校区120、協議会メンバー2,610人、情報誌を1回あたり168,000部、年10回程度発行し、学校教育支援に関わるボランティアは16,095人、休日や放課後に子どもとおとなが交流する主な取組み706事業、延べ391,000人の参加となっています。このように、「はぐくみネット」を通じて、学校教育やPTA、生涯学習ルーム事業等の取組みが地域社会で共有されるとともに、学校教育を支援する取組みや、地域社会のさまざまな事業と連携して子どもとおとなが出会いまなびあう活動が進んできています。

・「はぐくみネット」が地域社会における諸事業・活動を相互につなぐ要として、各事業の活性化や連携を深め、「教育コミュニティ」づくりを推進する役割を今後いっそう担っていくことが期待されます。

ウ)その他の小学校区における取組み
<児童いきいき放課後事業>
・児童いきいき放課後事業は、児童の放課後の遊びの空間と時間を確保し、学年を超えた児童集団を形成し、遊びの伝承や工夫を行い、児童自らが主体的にいきいきとたくましく生きる力を育むことを目的として、平成4年度(1992年度)より実施しています。

・現在は、市内の全市立小学校296校で実施しており、登録児童数は平成16年度(2004年度)末で約67,000人となり、全児童の約55%が登録し活動しています。

・また、平成13年度(2001年度)から、地域社会に住む高齢者が子どもたちの遊び相手や指導者となる「いきいきパートナー」※ としてボランティアで参加するなど交流の輪が広がっています。(平成16年度(2004年度)の登録者:1,120人)

(※ いきいきパートナー...高齢者の豊かな知識・経験を活かし、児童いきいき放課後事業の活動内容を充実させ、子どもと地元の高齢者の日常的な交流を深めることを目的に、各小学校区単位で活躍しているボランティア。)

<学校体育施設開放事業>
・市立の小学校・中学校・高等学校・養護教育諸学校の体育施設を地域社会に開放し、市民の健康・体力の維持増進と自主的・主体的な活動の推進を図ることにより、生涯スポーツの振興に寄与することを目的として、昭和35年度(1960年度)より学校体育施設開放事業を実施しています。

・PTAや子ども会、自主サークル、体育指導委員などの団体が中心となって活発に活動しており、平成16年度(2004年度)の実績は、1小学校あたり平均で運動場115回、体育館217回、プール3回となっています。平成14年度(2002年度)からは市民を対象としたスポーツ教室も一部の学校で始まっており、今後はこのようなスポーツ教室等の開催をいっそう促進していく必要があります。

<「教育コミュニティ」関連事業・諸団体の活動>
・このような「地域に開かれた学校づくり」関連事業の他にも、地域社会ではさまざまな生涯学習に関する取組みが進められています。PTAでは、学校・家庭・地域社会における教育の振興を図り、青少年の健全育成やPTA相互の交流や学習活動を進めるため、社会見学、講演会、親子遠足、スポーツ活動、子どもまつりなどの取組みを実施しています。

・「地域識字・日本語交流教室」は、外国籍住民など日本語の読み書きに不自由している人を対象として生涯学習ルーム事業で開設しており、識字・日本語学習支援のボランティアの参加を通じて、地域社会で市民がともに教えあいまなびあう国際交流の取組みを進めています。
・子ども会活動では、長年にわたりキックベースボールやソフトボールなどのスポーツ活動や、鼓笛隊・コーラスなどの文化活動に取り組んでいます(平成16年度(2004年度)の登録者:育成者約16,176人、子ども約47,906人)。

・「地域女性学級」は、小学校区単位で構成される女性会で開催されており、今日的な生活課題や女性の地位向上に関する系統的な学習機会を提供することを通じて、地域社会における男女共同参画社会づくりのリーダーや担い手を育成しています(平成16年度(2004年度)230学級、10,271人参加)。

・「青少年指導員」は、非行防止等のための校区巡視、スポーツ大会・レクリエーション大会・校庭キャンプなどを実施し、青少年健全育成に取り組んでいます(平成16年度(2004年度)3,963人)。「青少年福祉委員」は、青少年指導員の側面的支援や各団体とのパイプ役となる活動をしています(平成16年度(2004年度)3,710人)。

・「人権啓発推進員」は、人権学習を指導し助言するリーダーとして、また、人権啓発活動にかかわる事業・情報・人材を結び付けるコーディネーターとして、地域社会に根ざした人権啓発の取組みを行っています(平成16年度(2004年度)約1,100人)。

・「地域ネットワーク委員会活動」では、おおむね小学校区ごとに、民生委員・児童委員や地域組織、保健・医療・福祉関係者など地域社会の関係者でネットワークを構成しており、だれもがいきいきと安心して暮らせるよう、地域社会での見守りや課題発見、専門機関へのつなぎ役の役割を担うとともに、健康づくりや生きがいづくりに携わり、相談や友愛訪問を行っています。

・「小地域ネットワーク活動推進事業」では、高齢者・子ども・障害のある人などだれもが地域社会で安心して暮らせるように、おおむね小学校区を範囲とする地域社会福祉協議会が実施する、地域ボランティアの育成、施設等との協働活動、個別援助活動(見守り、家事援助等)、グループ援助活動(喫茶活動、世代間交流事業、子育て支援活動等)といった市民の参加と協力による支え合い、助け合い活動に対して助成を行っています。

・「地域ふれあい子育て教室」では、保育所などの地域施設に保健師や栄養士が出向いて保護者や子ども相互の交流をすすめることにより、地域社会で安心して子育てができるように、赤ちゃん体操・親子遊びや健康に関する助言指導を、定期的に実施しています。

・「総合型地域スポーツクラブ」は、地域社会で子どもから高齢者までだれもが気軽にスポーツを楽しむため、各区体育厚生協会、体育指導委員協議会、各競技団体等と連携・協力し、市民が主体的に運営するクラブであり、その設立を支援しています(クラブ結成の単位は、小学校区・中学校区・行政区など)。

・「市民レクリエーションセンター事業」では、レクリエーションセンターとして市立小学校・中学校・高等学校の体育館やテニスコートを使い、平日夜間(一部は日曜日)に、市民の健康・体力づくりのための各種スポーツ教室を開催しています(平成16年度(2004年度)市内31か所)。

②行政区における現状
ア)生涯学習推進体制
・平成12年度(2000年度)に、各区において、区民の意見を施策に反映させるために「生涯学習推進区民会議」を立ち上げ、区における生涯学習施策の方向性を示す「区生涯学習推進計画」を策定し、区役所の推進組織である「区生涯学習推進本部」と連携しながら、各区の特色を活かした事業展開を図る推進体制が整備されています。また、区内生涯学習関連施設相互の連携・協力を深めるための連絡会も活発に機能しており、各施設が実施する多様な事業の相互連携や効果的な実施が図られています。

イ)区民向けのさまざまな事業の展開
・区民の多様な生涯学習のニーズに応えるため、区民センター等において、講演会、講座、教室等が開催されています。区民と区役所が協働で、事業の企画、立案、運営を行う区民参画の地域協働学習の取組みとして、各区の特色を活かした、地域社会の歴史や文化、まちづくり、環境問題、子育て、人権問題などをテーマとした事業が展開されています。また、区民に対し幅広く学習機会を提供するため、区内の大学、高等学校、専門・専修学校等高等教育機関等のネットワークを活かした高等学校開放講座や大学開放講座などの学習機会を提供しています。

・対象別・分野別の事業としては、高齢者を対象に、学習を通じた仲間づくり、生きがいづくりを目的として、各区老人福祉センターで「いちょう学園」を開設しています。また、社会教育関係団体と連携した事業として、区単位でも女性学級を開設し、今日的な生活課題や女性の地位向上等に関する系統的な学習機会を提供しています。スポーツの分野では、市民健康づくり推進事業として、各区の体育厚生協会と連携して、区民の健康づくり・体力づくり事業や、区民レクリエーション大会等を実施しています。各区人権啓発推進(協議)会においては、さまざまな人権問題について、講演会や講座、啓発資料・パネルの展示などの啓発イベントを開催するなど、創意工夫を凝らした啓発事業に積極的に取り組んでいます。

ウ)生涯学習を担う人材の支援
・近年、各区では、区民の日頃の生涯学習活動の発表会・交流会が開催されています。区役所では、区内の生涯学習ルーム事業との連携を図るとともに、区生涯学習活動発表会・交流会の企画運営を中心的に担うなど区の生涯学習推進に不可欠な役割を果たしている生涯学習推進員区連絡会の活動を支援しています。また、各区コミュニティ協会とともに、各区の老人クラブ連合会・子供会育成連合協議会・PTA協議会・地域女性団体協議会・青少年指導員連絡協議会・体育指導委員協議会・体育厚生協会・視聴覚教育協議会等が、区社会教育関係団体連絡会議を開催し、団体間の連携や事業の連携を図っています。さらに、生涯学習関係の指導者・ボランティア等の研修や、その活動の機会づくりも積極的に行っており、「わがまちの名人」等、あらたな人材の発掘にも積極的に取り組んでいます。

エ)情報提供と学習相談
・平成11年度(1999年度)から各区役所に配置している生涯学習相談員を中心に、区内の生涯学習情報の収集、提供を一元化し、その情報を網羅した生涯学習情報誌の定期的発行、「大阪市生涯学習情報提供システム」での区内各生涯学習関連施設の情報提供や学習相談などを行っており、平成12年度(2000年度)から各区で実施している生涯学習情報コーナーにおける情報提供、学習相談件数は、市民の学習ニーズの高まりとともに年々増加しています(平成16年度(2004年度)総件数21,365件)。

オ)生涯学習関連施設の現状
・各区の集会施設である区民センターもしくは区民ホール・会館については、現在24区に37施設が整備されています。また、全区役所内には区民ギャラリーが開設され、区民の交流の場、区民や区内のグループの文化活動の発表の場として活用されています。また、図書館、スポーツセンターやプールなどのスポーツ施設、高齢者の生きがいづくりに関する事業等を実施する老人福祉センターなどの整備も進んでいます。


(5)「広域」「ターミナル」の生涯学習支援システム

1)中核施設・拠点施設の現状・市民学習センターは、勤労者層にとっても利用しやすい学習施設として、交通の便の良いターミナルに立地し、平成5年(1993年)に弁天町市民学習センターを開設し、その後、阿倍野市民学習センター(平成6年(1994年))、難波市民学習センター(平成12年(2000年))、城北市民学習センター(平成14年(2002年))を順次開設し、現代的・社会的課題を中心に多様な学習機会・場の提供と学習相談などの機能を果たしています。・また、平成14年(2002年)に、「広域」の学習施設として、大阪駅前に総合生涯学習センターを開設し、生涯学習情報の収集・発信、生涯学習ボランティアの養成・研修、新しい学習プログラムの開発、市民やNPOとの協働事業の開発・実施など、市民の生涯学習を総合的に支える中核施設としてその機能を発揮しています。

2)「大阪市生涯学習情報提供システム」の整備
・さらに、総合生涯学習センターの開設と同時に、家庭のパソコンや公衆用端末から大阪市の生涯学習に関する事業・施設・人材・教材などの総合的な情報を入手することができる「大阪市生涯学習情報提供システム」が稼動しています。その後、本システムの改善を図りながら、平成16年度(2004年度)には、生涯学習施設の空室状況の照会・予約を可能にするとともに、市内で開催される講座・イベントなどの情報を掲載したメールマガジン ※ の配信サービスも開始しています。「生涯学習情報提供システム」の平成16年度(2004年度)のアクセス件数は151,632件、メールマガジンの配信数は660件(平成17年(2005年 8月現在)となっています。

(※ メールマガジン...電子メールを利用して発行される新聞や雑誌のようなもので、配信登録をすると定期的に情報が届けられる。)


・市民のだれもが、いつでも、どこでも学べる環境づくりとして、大阪市の「生涯学習支援システム」を引き続き充実させるとともに、総合生涯学習センターと市民学習センターのいっそうの連携とネットワークの強化を進め、生涯学習の担い手となる市民グループやNPOと協働し、市民主体の生涯学習や「地域」学習圏に対する支援機能を十分に発揮していく必要があります。

3)生涯学習関連施設の現状
・「まなび」と「行動」が循環し、市民が日常的に直面するさまざまな課題解決のための取組みと学習とが密接に結びつく状況が広がりつつあり、環境問題・防災・男女共同参画・子育てなど、各課題についての学習支援策の充実が求められるなかで、大阪市の生涯学習関連施設が整備されてきています。

・「前計画」策定前の平成3年度(1991年度)と平成17年度(2005年度)の生涯学習関連施設数を比較すると、広域施設では、総合生涯学習センターや市民学習センター、キッズプラザ大阪やクラフトパークなどを設置しており、施設数は158から230に増えています。そのうち、市民学習センターなどの学習施設やホールなどの集会施設は38施設から67施設に、図書館・博物館、情報センター等は25施設から44施設に、野外活動施設・スポーツ施設は68施設から87施設へと、それぞれ2割~7割もの伸びとなっています。

・今後は、類似施設間での相互の連携を充実させるのみならず、異なる分野の課題解決のための複数の施設を、「生涯学習のまちづくり」という視点から、ネットワーク化を図ることが重要です。また、企画・広報や、事業の実施における施設間の連携や協働化や、総合生涯学習センター・市民学習センターなどの生涯学習の中核・拠点施設による支援策の充実に取り組みます。


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