生涯学習大阪計画 ~自律と協働の生涯学習社会を目指して~

はじめに 第2章 第3章 第4章 第5章

第 1章 計画の策定にあたって

1  策定の趣旨

 大阪市では、市民の学習活動を総合的に支援するため、平成4年(1992年)2月に「生涯学習大阪計画」(以下「前計画」という)を策定し、市民のだれもが、いつでもどこでも、必要に応じて楽しく学び続けられる「人間尊重の生涯学習都市・大阪」の実現をめざして、生涯学習の総合的・体系的な推進を図ってきました。

 市民の学習活動は、生きがいや心の豊かさ、新たな知識や技術などを獲得するための学習のみならず、社会の変化に伴うさまざまな課題に対応するための学習活動などの分野に着実に広がってきています。
 しかしながら、平成4年(1992年)の前計画の策定以降も、市民を取り巻く社会環境は大きく変化しており、市民の価値観や公共サービスに対するニーズが多様化するなかで、成熟した市民社会を創造するためには、市民が社会の担い手として、NPO※1、企業、行政と対等のパートナーシップを築き、協働していくことが重要になっています。

(※1 NPO(Nonprofit Organization)...さまざまな非営利活動を行う「民間非営利組織」のことをいい、市民が主体となって、継続的、自発的に市民公益活動を行う組織のこと。非営利組織とは、株式会社などの営利企業と異なり、構成員への利益配当を目的としない組織であり、社会的な使命(ミッション)の実現をめざして活動する組織や団体のことをいう。特に、特定非営利活動促進法(NPO法)により、特定非営利活動法人の認証を受けた団体がNPO法人である。)

 家庭を取り巻く社会環境の変化のなかで、児童虐待や育児放棄の増加、問題行動の低年齢化、いじめ、不登校、ひきこもりなど、青少年をめぐる問題は深刻度を深めています。こうした状況の背景には、社会構造の変化のほか、家庭の教育力の低下とともに「地域の教育力」の低下が大きく関係していると考えられます。今日、青少年が夢と希望を育み、ひとりの人間として自立して歩めるよう、学校や家庭だけでなく、地域社会のなかでの「居場所」づくりや体験学習の機会、世代間の交流等による「地域の教育力」の向上がますます必要となってきています。
 また、「団塊の世代」の退職や少子・高齢社会への対応、多文化共生の取組み、環境問題への取組み、情報通信技術の急速な発展に伴う情報活用能力の向上などが課題となっています。さらには、「人権教育のための国連10年行動計画」(平成7年(1995年))、これに続く「人権教育のための世界プログラム」(平成17年(2005年))など、国連を中心とした国際社会の取組みに呼応し、すべての人が人間として、互いの個性と価値観の違いを認め合いながら、主体的に生き、社会に参画できるしくみづくりを進めていくことが期待されています。

 社会環境が激しく変化し、将来の予測が難しい今日の状況のなかで、市民が自らに適した手段・方法で、主体的に生きる力を身につけ自己実現を図るばかりでなく、学んだ知識・技術等をまちづくりに活かしながら、再び課題に直面すればまた新たな学習に取り組む、という「まなび」※2と「行動」が循環する市民主体の循環型「生涯学習社会」づくりが求められます。

(※ 2 まなびと学習...本計画では、「まなび」と学習という2通りの表現を使っている。学習とは、「経験による人間の行動の変容」という意味を持ち、本人が意識するかしないかを問わず、経験をする前と後で行動のしかたに持続的な変化が生ずれば、それを学習と考える広い概念である。本計画では、生涯学習において、学習という言葉の持つ学校での勉強や座学などといったイメージに捉われない、広い意味での学習を想定する場合、あえて「まなび」と表記している。)

 まちづくりを通して市民がさまざまな問題に対応していくためには、大阪市はもとより、NPO、企業などと協働していくことが大切であり、そこでは、市民一人ひとりが、直面するさまざまな課題を自らの意思と責任において、主体的に市民自治の観点から解決するという「自律と協働の社会」づくり(詳しくは第3章28ページ)が重要です。

 このような社会づくりのためには、「市民が、自分たちでものごとを決め、社会的な課題に対しては市民相互、あるいはNPOや行政や企業などとともに解決に当たるため、市民一人ひとりが自律し連帯することのできる力」である「市民力」※3を育むための学習が必要です。

(※ 3 市民力...自分たちでものごとを決め、社会的な課題に対してはともに解決に当たるという市民一人ひとりの、自律し連帯する力のこと。典型例としては、阪神・淡路大震災の後、神戸や阪神地域で、市民自身による避難所での相互扶助や問題解決のための話し合いや行動がみられたが、ここで発揮されるような力が市民力であるといわれる。また、市民の地方自治への参加・参画においては、市民力とは、①住民自治、②市民への権限委譲、③パートナーシップの段階で発揮される力であるといわれる。)

 大阪市は、「生涯学習大阪計画」を策定することにより、「市民力」の育成を進め、「地域の教育力」の向上に向けた「教育コミュニティ」※4づくりなど、市民一人ひとりの自己実現や「まちづくり」につながる自主的・主体的な循環型の学習活動を支援し、「自律と協働の社会」づくりをめざします。

(※ 4 「教育コミュニティ」...地域社会の共有財産である学校を核とし、地域社会の中で、さまざまな人々が継続的にこどもに関わるシステムをつくり、学校教育や地域活動に参加することで、子どもの健全な成長発達を促していこうとするもの。かつての地縁的コミュニティに加えて、少子・高齢化等が進む新しい時代のコミュニティとして、学校・家庭・地域社会の協働をめざすものである。)


2  計画の目的と位置づけ

(1)計画の目的
 「生涯学習大阪計画」は、市民のさまざまな生涯学習活動を支援するため、本市における生涯学習推進の基本的な考え方と方向性を示し、関係施策を総合的・体系的・計画的に進めることを目的とします。

(2)計画の位置づけ
 平成4年(1992年)に策定した「前計画」は、「大阪市総合計画21」における生涯学習分野の計画と位置づけられてきました。本計画についても、「大阪市基本構想」(平成17年(2005年)3月策定)の実現に向けて、大阪市がとるべき施策の方向性を示す「大阪市基本計画」(平成17年(2005年)12月策定)との整合性を図りながら、大阪市の生涯学習分野の計画として位置づけ、生涯学習の推進を図ります。
 計画の期間は、目標年次とする平成27年度(2015年度)までの10年間とし、中間時点で、社会状況等の変化に応じて見直すこととします。

(3)「生涯学習大阪計画」における「生涯学習」の考え方
 「前計画」では、「生涯学習」とは、「基本的人権、自由、民主主義、ノーマライゼーション※5等の人間尊重の考え方を基本として、一人ひとりが人生のあらゆる段階や場面において、できるかぎりの自己実現をめざし、自分に適した手段・方法を選んで、自ら進んで行う自己教育活動であるとともに、学習者がその成果を社会に広げ、よりよい社会への変革を担っていくことができるための学習のことである」としてきました。
 本計画においては、「まなび」と「行動」が循環し、学習とさまざまなまちづくりの取組みとが密接に結びつき広がりつつある状況をふまえて、これまでの考え方に加え、「市民一人ひとりが、身近な問題について主体的に考え、ともに解決に当たるという、自律し連帯する能力である『市民力』を獲得するための学習」とします。

(※ 5 ノーマライゼーション...障害のある人も高齢者も子どももすべての人々が、家庭や地域社会でともに生活していける社会が通常の社会であるという考え方。 )
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