団体貸出



「強いものの国」
福島 洋子

 

 むかし、あるところに「強いものの国」がありました。その国には体が不自由だったり、おもい病気の人はいません。年をとった老人すらいないのです。王国の入口に立てられたかんばんには、大きな字で「体が不自由なものはこの国に住むべからず」と王さまのおふれが書いてありました。もしそういう人がいたら、家族とわかれておとなりの「弱いものの国」へ行かなければなりません。その国は、けわしい山をいくつもこえた遠い場所にありました。また、はだや目やかみの毛の色がちがうよその国の人も、王さまのめいれいで、ぜったいに「強いものの国」には住めませんでした。
 みんなが元気でよくはたらくので、この国では作物や魚がたくさんとれました。そのおかげで王さまは目もくらむほどの金貨やほう石の山にかこまれ、りっぱなおしろでくらしていました。
 そんなある年の春、「強いものの国」は海のむこうの国と戦争をはじめました。王さまがもっと国を広げて、いまよりお金もちになりたいと考えたからです。「わしの国は元気で強いものばかりじゃからな、かならず戦争にかつはずじゃ」
 王さまはたくさんのわかものを戦争に行かせました。その中には王さまのたった一人の子どもである王子もいました。「ゆうかんに戦って、きっと戦争にかちます」王子はそう言って、たくさんのわかいへいたいを引きつれ、海のむこうへわたっていきました。
 やがて夏になりました。戦地の王子から王さまへとどいた手紙には、「ぼくたちはとても強いです。もうすぐてきをやっつけるでしょう」と書いてあり、王さまはよろこびました。
 そして秋になりました。王子からの手紙には、「ぼくたちはゆうかんに戦っていますが、てきも強くてなかなか前へすすめません」と書いてありました。王さまはさらにたくさんのわかものを戦地へ行かせました。
 そして冬。王子からの手紙はとどかなくなりました。王さまはおしろの家来以外のすべての男たちを戦地へ行かせました。
 やがてふたたび春。でも男たちがいなくなった「強いものの国」はとてもしずかです。今ではわらい声すら聞かれなくなりました。
 そんなある日、王さまはこんなうわさを耳にしました。戦争へ行った「強いものの国」のへいたいたちがおとなりの「弱いものの国」でくらしているというのです。戦争でけがをして体が不自由になってしまったへいたいたちは、おふれのため自分の国に帰ることができません。そのへいたいたちのなかに王子もいるという話です。
 ある日、王さまはこっそりと家来をつれて「弱いものの国」に出かけました。いくつもの山をこえてようやくたどりつくと、入口のおくの広場からにぎやかな人の声が聞こえてきました。それはうわさどおり「強いものの国」のへいたいたちでした。おまけに王さまからおい出された体の不自由な人びとや老人たちもいます。「弱いものの国」の人々に手を引いてもらったり、おぶってもらいながら、みんなしあわせそうにわらっていました。やがてそこに一人のわかものが、くり色のかみをしたわかい女の人にささえられながらあらわれました。わかものには足が一本しかありません。にこにこわらっているそのわかものは、まぎれもなく王子その人でした。
 王さまはしあわせそうな王子や人びとのようすを見ておどろきました。この国ではだれもがたすけ合ってくらしています。王さまはうなだれ、王子に声をかけることもせず、自分の国に帰りました。
 それからすぐ王さまは、海のむこうの国との戦争をやめ、おふれも作りなおしました。
 「体が不自由なもの、老人、よその国のものみんな仲良くたすけ合ってくらすこと」
 新しいおふれのおかげで、帰ることのできなかった人々はみんな帰ってきました。王子もあの女の人といっしょに帰ってきました。王さまはなみだをながしてよろこび、二人をけっこんさせました。やがてその国は「やさしいものの国」とよばれるようになり、だれもがたすけ合い、しあわせにくらしたということです。