ぼくの妹のユミコは、もうすぐ五才になる。お母さんがユミコと話しているのを聞いた。
「ユミコ、おたん生会にだれをよぶの?」
「幼稚園のお友だちのチーちゃんとアッちゃん。今度の土曜日に来てねってお話したよ。」
「じゃあ、ごちそう作らなくっちゃね。」
「ユミコ、ケーキを作ろうと思ってるの。」
「ケーキ?」
とたんにお母さんの顔がこまったようなさびしい顔になった。ユミコはアレルギーがあって、タマゴや牛にゅうをつかったケーキを今まで一度も食べたことがない。ぼくのたん生日も、クリスマスも、ユミコは一人だけゼリーを食べてにこにこわらっていた。時どきおきゃくさんが知らずにケーキをもってきて
「ユミちゃんもいっしょに食べましょう。」
と言うと、お母さんはいつもこまったようなさびしい顔をして食べられない理由を話す。すると、おきゃくさんはきまってこう言うんだ。
「まぁ、ケーキが食べられないなんてかわいそうね。」
ユミコが作るケーキってどんなんだろう?ぼくは考えてみたけれど、わからなかった。ユミコがうれしそうに言った。
「おばあちゃんに手伝ってもらうの。白くておいしくて、ユミコも食べられるケーキなのよ。」
土曜日、朝からぼくの家の台所は大さわぎ。お母さんがユミコの大好物のカラアゲをあげるいいにおいがしている。たくさんのオニギリもならんでいる。ユミコはおばあちゃんと何かを丸めている。何だろう?ぼくがのぞこうとするとお母さんが言った。
「やっとおきたの?早く顔をあらって!ユミコのお友だちが来るのよ。」
ピンポーン!!
「ユミちゃんおたん生日おめでとう!」
チーちゃんとアッちゃんが来た。二人のお母さんもいっしょだ。みんなでごちそうを食べてジュースものんだ。ユミコはとてもうれしそうだ。
「じゃあそろそろケーキの登場だね。」
お母さんがへやの電気をけすと、ゆらゆらと五本のろうそうくがゆらめいて、おばあちゃんがケーキをもって来た。
「いくよ!」
ユミコがいきおいよくろうそくの火をふきけした。
「うわぁ〜!」
一瞬でまっくらになったへやにふたたび電気がついた。白くて丸いものがたくさんならんでいる。色とりどりのフルーツでぐるりとまわりをかこんである。どこかで見たことがあるぞ。わかった!だんごだ。白玉だんごのケーキだ。これならユミコも食べられる。
「これケーキじゃないよ。おだんごだよ。」
チーちゃんのことばに楽しい気分が一瞬できえた。お母さんも他のお母さんもまたあの顔になった。どうしよう?!ぼくがあわてているとユミコが言った。
「うん。おだんごケーキなの。ケーキを食べる時ってみんなにこにこ顔になるでしょ。これはユミコも食べられるケーキなの。みんなで食べておいしいねってにこにこ出来るからおだんごだけどケーキなの。」
「そうか。おだんごケーキね!」
アッちゃんがそう言って一口食べた。
「おばあちゃんといっしょに作ったの。」
ユミコも一口ほおばった。みんなつられて食べた。
「おいしいね。」
「ほんとうね。」
ぼくの知ってるあまくてクリームがたっぷりのケーキとはちがうけど、ユミコといっしょに食べたケーキのあじはかくべつだった。おだんごケーキはあっと言う間になくなり、みんなの笑顔がいつまでものこった。
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