団体貸出



「未来への手紙」
高橋 町子

 

 こごえそうな冬の夕ぐれです。
 あれ?
 ユウは、ふと足を止めてしゃがみました。
 アスファルトのわれめに、ちいさなタンポポがさいています。まるで、そこだけにポッカリとあたたかいひがさしているように。
 いつも通っている道なのに、どうして気がつかなかったのでしょう?
 あれれ?
 ユウは、タンポポの上を見あげました。いつもと同じようにポストがあります。いつも手紙をいれているポストなのに、どこかヘンです。
 たしか二つだった口が、三つにふえているのです。よくよく見ると、まん中が「現在」ひだりが「過去」みぎが「未来」となっています。
 こんなことってあるでしょうか?このポストには、過去や未来へも手紙をおくることができるということなのでしょうか?
 ありえない話です。ありえないけれど・・・。
 ユウは、いそいで家に帰ると、大切にとっておいたおし花のびんせんをとりだしました。
 どうしても手紙を出してみたくなったのです。出せるものだったら。
 サチエちゃん、お元気ですか?
 そのあと、どう書いたらいいのでしょうか?上手な文章がうかんできません。

 それは、何年か前のことでした。
 ユウの七五三のおいわいのときです。
 七才のユウは、長いかみをゆいあげ、かんざしをいっぱいさし、ふりそでをきて、まるで京都のまいこさんのようになりました。はいたポックリには鈴がついていて、歩くたびにリリンリリンと、かわいい音までするのです。
 家族みんなで、おみやまいりに行ったとき、おなじクラスのサチエちゃんに会いました。
 サチエちゃんは、いつものセーターすがたです。サチエちゃんは、ユウを見かけると、だまって走っていってしまいました。
 つぎの日。ユウは、学校で会ったサチエちゃんに聞きました。
 「サチエちゃんは、七五三しないの?」
 サチエちゃんは、ポツリとこたえます。
 「七五三は、心でするものだから」
 「心で?そうかなぁ?」
 ユウは首をかしげました。
 だって、おかあさんやおばあちゃんが、一生けんめいよういしてくれたふりそでや、家族や親せきがあつまって、みんなでおいわいしてくれることがなければ、七五三にならないような気がしたのです。
 それから何日かたったとき、サチエちゃんが学校を休みました。
 「カゼひいちゃったのかな?」
 ユウは、ポツリとあいたせきを見つめて言いました。
 「いないほうがいいや。」
 「ムシムシケムシだ。」
 男の子たちが、かってなことを言っています。
 ユウは、イヤな気もちになりましたが、言いかえすことができませんでした。
 ただ、だまっていることしかできなかったのです。
 その日、ユウは、学校の帰り道に、サチエちゃんの家のあるほうに、まわり道をしてみました。
 サチエちゃんがいます。どうやら、おそうしきのようでした。たくさんの人たちがあつまっていました。女の人たちが、見なれないふくそうをしています。
 あとで知ったのですが、それは、チマチョゴリという、韓国・朝鮮の国の服で、日本のきものにあたるものでした。
 その見たこともない、日本人とはちがうかっこうに、ユウは気おくれしてしまいました。ちがうということがこわかったのです。
 とうとうユウは、サチエちゃんに、ひとことも声をかけないまま帰ってきてしまいました。サチエちゃんが、とてもかなしそうな顔としていたというのに。なにひとつせずに・・・。

 「わたし、やっと少し分かるようになったの。心でいわうっていうことが。あのときは、ごめんね」
 ユウは、その上手とはいえないみじかい手紙を、おもいきってポストの「過去」の口に入れました。すると、なんと一ヵ月後にユウのもとにへんじがとどいたのです。それには、
 「友だちになりたかった」
 たった一行だけ書かれていました。
 「友だちになろうよ!」
 ユウは、大急ぎでへんじを書くと、北風のなかを、あのポストがある場所にむかって走っていきました。
 そして、サチエちゃんに書いた手紙を「未来」の口にソッといれまいた。
 ポトリ!
 手紙はたしかな音をたてて、未来へと、とうかんされました。