団体貸出



「ボクの名前はコウタ、5才。
カミジマ キヨコ

 

ボクの名前はコウタ。5才。
ボクのパパもママも耳が聞こえない。話をする時は手で話をするから「手話」って言うんだ。
保育所や家の近所では手話をつかう人がいないけれど、区民センターで週に1回やっている手話サークルでは手話をべんきょうしたり手話で話をしてくる人でいっぱいだ。
パパもママも手話を教えたり、おしゃべりでわらったりとにぎやかだ。

 ある日、ボクは保育所で、友だちに言われた。「コウタのパパやママはどうして声でお話しないの?みんな声でお話するのに、なぜコウタのところだけちがうの?おかしいよ」ボクはいっしゅんドキッとして、「だってパパやママは耳が聞こえないから手で話をするんだ」と言った。「へぇ。でも手で話をするなんて、へんなの」友だちが言った。ボクはなんと言っていいのか分からなくて、顔をまっ赤にしてその場でしゃがみこんでしまった。
 
夕方、しごとがおわってママがむかえに来たけど、ボクはだまったままママの自転車の後ろにのった。ママが自転車をこいでいる間、ボクはいろいろおもった。そういえば、タッちゃんやルリちゃんも自転車の後ろにのっていてもママとおしゃべりできるもんなぁ・・・。ボクの場合、ママが自転車をこいでいる時は顔を合わせられないからおしゃべりができない・・・。そうか、やっぱりうちはおかしいんだ、へんなんだ・・・。ボクはなんだかなみだが出てきた。
 
ママが「はい、家についたよ」とふりかえった時、ボクのほっぺたがぬれていることに気づいて、「コウタ、どうしたの!?」と手でたずねた。ボクは「何でもないよ」と言いながら、ママの心ぱいそうな顔を見たらまたないてしまった。ママはなにも言わずにじっとボクの頭なでて自てん車からおろしてだっこしてくれた。ボクは保育所でともだちに言われたことを話しおわると、ママは言った。「コウタ、ママは耳が聞こえないことも、手話で話をすることについても、おかしいとおもっていないよ」ボクは「どうして?友だちはへんって言ってたのに」と言って顔を上げた。「コウタの友だちや、タッちゃん、ルリちゃんは手で話ができることを今は知らないの。パパやママは手で話をすることができるの。」そしてママはつづけてボクの目を見て言った。「コウタ、この広いせかいには、いろいろな話をするほうほうがあるのよ。だから、手で話をするということはぜんぜん、おかしくないよ」 「話をするいろいろなほうほう?」
「日本では日本のことばで話をするけど、外国ではそれぞれの国でいろいろなことばがあるのよ。また、声で話をするほうほうだけでなく、紙に書いてつたえたり、パソコンで文字のやりとりをしたりといろいろなほうほうがあるのよ。声を出せないほどさむいところにいる人は、手で話すよ。海にもぐっている人もいきができないから声を出すかわりに手をつかって話をするよ。」コウタはいつか、テレビで見たことをおもい出した。
「そうだね」
「ともだちは手で話すことを知らないから教えてあげてね。コウタは手で話せることを知っているからね」
「うん」
コウタのなき顔はわらい顔になった。

次の日・・・。保育所でボクはみんなと、こんどおゆうぎ会ではっぴょうするげきのれんしゅうをしていた。
まどガラスの外からパパの顔が見えた。
あれ、パパがむかえに来てくれるなんてめずらしいや、
とボクはおもっていたら、パパが手話で「今日はしごとが早くおわったからパパがむかえに来たよ。おゆうぎのれんしゅうかい。がんばれよ。れんしゅうがおわるまで外でまっているから」
「うん、まっててね!」とボクは手でこたえた。
すると、みんなはボクらの話しているようすを見ていて「コウタはパパとおしゃべりできたの!?まどの外にいるのに?」とおどろいたようだった。
ボクは、話した。手話はガラスごしでも話ができることを。そして声が出せないほどさむいところや水の中でも、手話だったらお話ができるということも。きのうママと話したことをおもい出しながら。「へぇ!コウタはすごいなぁ!わたしも手話をおぼえたい!」
「わたしも!」「ボクも!」「先生、手話を教えて!」コウタはおもった。
手で話すことも、声で話すこともどちらも同じなんだ。なんだかちょっぴりほこらしくおもった。手話ができるということを。