団体貸出



「五まんのいのち」
田村 初美

 

 かぞくであさごはんをたべました。オムレツ、やさいサラダ、パンとぎゅうにゅう、そ
してわたしのすきなとりのからあげがありました。いっぱいたべたので、かえるのおなか
みたいにまんまるくふくらみました。
  おかあさんとスーパーにかいものにいきました。「とれたてのしんせんなさかなだよー。
うみからとどいたばかりだよー」さかなうりばのおじさんがいいました。さかなのからだ
はピチピチとひかってとびはねそうなほどです。「きょうのおひるのおかずは、さかながい
いわね」おかあさんはさかなをカゴに入れました。
  「よるごはんはやきにくにしましょう。ぶたさんのおにくと、うしさんのおにくと、ど
っちがたべたい」おかあさんはわたしにききました。「ぶたさんがいい」わたしはいいまし
た。おかあさんはぶたにくをカゴに入れました。
  「やさいもかわなくっちゃね」おかあさんはキャベツときゅうり、なす、にんじんをカ
ゴに入れました。すこしまよってからかぼちゃもカゴに入れました。
  かえりみち、はたけでおばあさんとトマトをもいでいるゆうかちゃんに出あいました。
おばあさんがわたしとおかあさんにトマトをくれました。「見て、見て。パンダのあたまみ
たいなかたちのトマトよ」わたしはゆうかちゃんにいいました。「わたしのはまっ赤なお月
さん」ゆうかちゃんもじぶんのもっているまんまるいトマトを見せていいました。「みどり
いろのぼうしをかぶったトマトでーす」おかあさんもわたしのトマトにじぶんのトマトを
こっつんこさせていいました。
  「トマトだって、生きているからね。人げんがみんなかおがちがうように、トマトだっ
ておんなじかたちのトマトはないんだね」おばあさんがわらっていいました。
  わたしはトマトのしんぞうの音がきこえそうな気がして、どきどきしながらトマトをた
べました。
  『とろっとあまくて、おいしいな』たちまちトマトは、わたしのおなかの中にきえまし
た。
  「おひるごはんよ」おかあさんがいいました。かぼちゃのにもの、ひややっこ、やさい
いため、ごはん。そしてやきざかなが、テーブルにならんでいました。さらの上のやきざ
かなは、まんまるい目をして、口を小さくあけていました。さかなは、しんでいます。ち
ょっとまえまで、いのちがあって、うみの中をげん気におよいでいたはずです。
わたしは目をつむって、ともだちとたのしそうにおよぐさかなのすがたをおもいうかべま
した。
  そしてさかなのおなかをひと口、たべました。『ほわっとやわらかくて、おいしいな』
いまわたしは、さかなのいのちをたべています。さかなのいのちは、いまわたしのいのち
になろうとしています。
  「わたしはいままで、いのちをいくつたべたのかなあ」おかあさんにききました。
  「そうね、一日に三十くらいたべたとして、あなたは五さいだから…」おかあさんは小
くびをかしげたあと「だいたい五まん、てとこかしら」わらっていいました。「五まんのい
のちが、わたしのいのちになったのね。それじゃあ、わたしのいのちって、ものすごくも
のすごーく大じだね。」