団体貸出



「おかあさんのおくすり」
山口 亜由美

 

  ぼくのおかあさん。おこるとちょっぴりこわいけど、やさしくてだいすきなおかあさん。
でも、ぼくにはわからないことがひとつある。おかあさんは、まいにちかならず、おく
すりをのんでいるんだ。わらってる日も、おこってる日も、はれた日も、あめの日も、ま
いにちまいにちのんでいる。
ふしぎだなぁ。ぼくがおくすりをのむのは、カラダがしんどくってげんきがでないとき
だけ。なのに、おかあさんは、ぼくとげんきいっぱいあそんだ日だってのんでいる。どう
してなんだろう?
おかあさんにきいてみた。
「ねぇ、おかあさん。どこかしんどいの?」
「ううん、げんきよ。どうしたの?」
「じゃあ、どうしておくすりのんでるの?」
「うふふふふ。しんぱいしなくってもだいじょうぶよ」
うーん?!やっぱりぼくにはわからない。


ある日、いえにかえると、おとうさんがすわっているよこで、おかあさんがねむっていた。
ぼくはびっくりした。しんぞうがバクバクしてきた。
? 「おかあさん、どうしたの?」
おとうさんにきいた。おとうさんはにっこりして、ぼくにはなしてくれた。
「おかあさんはね、『てんかん』っていうあたまのびょうきなんだ。ふだんはとってもげん
きなんだけど、あたまの中ででんきの小さなばくはつがおきると、きょうみたいにコロ
ンってたおれちゃうんだ」
(てんかんって、かわいいなまえのびょうきだな)
とぼくはおもった。
「おくすりをしっかりのめば、ばくはつもおこりにくくなるんだよ。でもね、つかれたり、
ねむれなかったり、おくすりをのみわすれたりすると、おくすりがきかなくなることが
あるんだ」
ぼくは、しんけんにおとうさんのはなしをきいた。
そのとき、ねむっていたおかあさんがムクリとおきあがったんだ。
「あ!おかあさん、だいじょうぶ?」
おかあさんは、おとうさんのかおをみてから、にっこりしてぼくにいった。
「しんぱいかけてごめんね。おかあさん、ちょっとつかれちゃってたみたい。でも、もうだ
いじょうぶ」
よかったあ。おかあさんのえがおで、しんぞうのバクバクはどこかへとんでいった。そ
して、バクバクのかわりに、ぼくの中であたらしいきもちがうまれた。
「ぼくがおかあさんをまもってあげる!」
「え?!」
「ぼく、おかあさんがつかれてたら、おてつだいしてあげる。ねむれなかったら、せなか
トントンしてあげる。ちゃんとおくすりのんでるか、いつもみててあげる」
「ほんと?ありがとう!」
おかあさんはうれしそう。げんきいっぱいのいつものおかあさんにもどったみたいだ。
おかあさんのおくすりのひみつをしったぼくは、いままでのぼくとはちがうんだ。おか
あさんのびょうきは、ぼくがやっつける。おくすりをみかたにすれば、てんかんなんかこ
わくないぞ。ぼくは、つよくなったきがする。
その日のよる、ぼくは、おかあさんのせなかをトントンしながら、うたをうたってあげ
た。
♪てんかんなんかこわくない
ぼくがまもってあげるから♪
ゆめの中でも、ぼくは、おかあさんとおとうさんとおくすりといっしょに手をつないで、
うたをうたった。
♪てんかんなんかこわくない
みんなでまもってあげるから♪
みんなにっこりわらって、げんきいっぱいうたった。おかあさんも、げんきいっぱいだ
った。きょうのこと、ぼくはいっしょうわすれない。
ぼくのおかあさん。てんかんのおかあさん。ぼくがまもってあげるんだ。だって、だい
すきなんだもん。