団体貸出



「ペンペンどうの よしこさん」
真島 理美

 

ペンペンどうは、文ぼうぐや さん。
わたしの おばあちゃんの お店です。

お店には、こどもが来ます。おとなも来ます。

ゆうびん はいたつの お兄さんも てがみを もってきてくれます。

「ペンペンどうの よしこさんですね?」
「はい」
おばあちゃんは むねを はって こたえます。

「おばあちゃん、よしこさん いうんやなあ」
「知らんかったか」
「知っとったけど、わすれとったわ」
おばあちゃんは わらいました。
「そうか。おばあちゃんは よしこさん やで。よう おぼえときや」

あるとき、おばあちゃんは ころんで けがを して しまいました。

お店は お休みです。おばあちゃんは わたしの家で ずっと ねていました。

やがて、おばあちゃんは おきあがれる ように なりました。でも、お店は しめられた まま です。おばあちゃんは、なんだか 前よりも 小さく なってしまった ように 見えました。

あるばん、わたしは 大きな声で 目がさめました。となりの へやで おとうさんが ど
なっています。わたしは、ふすまの 間から そっと となりを のぞきました。

「おかん、ろうじんは ろうじん らしくせな。なんや、店なんて。店なんて やめてまえ」
おばあちゃんは うなだれています。
おかあさんは ぼんやり かべを見ていました。
わたしは ばっと ふすまを あけました。
「おばあちゃんは ろうじん ちゃうねんで」
おとうさんは びっくりして わたしを にらみつけました。
「なら、なんや」

「おばあちゃんは よしこさんや。ペンペンどうの よしこさん やで」
おばあちゃんは、なみだで 顔を くしゃっとゆがめました。おかあさんは、うしろから 
わたしに だきついてきました。
「そうや、そうや」

おとうさんは ほっーと 大きな いきをはいて、しばらく だまっていました。が、ふと わたしを見ると、まぶしそうに わらいました。
「おとうさんの まけ やな」

おばあちゃんの お店は また はじまりました。こどもも来ます。おとなも来ます。
ゆうびんや さんの お兄さんも。

「はい、ペンペンどうの よしこさん」
おばあちゃんは にっこり わらって むねを そらせました。わたしも いっしょにな
って むねを そらせました。