団体貸出



「おばあちゃんのおみせ」
中川 佳子

 

きょう、ぼくはあさからごきげん。がっこうがおわったらおばあちゃんのうちにかえるん
だ。こういうことは1かげつに1かいくらいしかない。

ぼくのおばあちゃんは、こどものころからずっとたのしいことがだいすき。
まいにちおまつりみたいな、だがしやさんになるのがゆめだった。
だから15ねんまえにいえをかいぞうして、おみせをはじめたのさ。

「ただいまあ」
「おかえりなさあい」
このピンクのくちべにのおしゃれなひとがぼくのおばあちゃん。

ゆうがたは1にちのなかで1ばんおみせがいそがしいじかん。ちいさなおきゃくさんたち
が、たいせつなさいふをもっておばあちゃんのおみせにつぎつぎあつまってくる。

ぼくがおみせのベンチでわごむでっぽうをしていたら、ヌ〜ッと、ちゅうがくせいのおに
いさんがはいってきた。
「おばちゃん、ひさしぶりー」
ちょっとひくいこえだったので、ぼくはちぢこまってしまった。

おにいちゃんはぼくにきがつくと、
「あかんあかん。わごむでっぽうはこうやるんやで」
といいながら、ぼくのてからわごむをつまみあげた。おにいちゃんはひょいひょいっとみ
ぎてにわごむをかけて、パーンとうった。
ピーンとはじかれたわごむ。かっこいい。ぼくはおもわずパチパチパチとはくしゅをした。

ぼくはおにいちゃんから『わごむをとおくまでとばすコツ』をおしえてもらった。
なんどもなんどもれんしゅうしたら、おにいちゃんのはんぶんくらいはとぶようになった。
おにいちゃんは
「がんばりや。じゃ、おばちゃんバイバイ」
といってかえっていった。

きがつくと、おばあちゃんがにこにこしてこっちをみていた。
「はじめてやな〜。たけしくんがこないながいあいだみせにおったんわ」
となつかしそうにはなしはじめた。

たけしおにいちゃんはぼくくらいのころ、ときどきおみせにくるようになった。いつもひ
とりで。おばあちゃんは「おとなしいこやな」とおもっていた。

でもあるひおばあちゃんは、たけしおにいちゃんがこっそりあめだまをポケットにいれる
のをみたんだ。

おばあちゃんはびっくりしたけど、なにもいわなかった。
そして、つぎにおにいちゃんがきたときから、すこしずつはなしかけてみたんだって。そ
うしたらおにいちゃん、おしゃべりはとくいじゃないこと、なかのいいともだちはいない
こと、がっこうからかえってもひとりでつまんないことなんかをちょっとずつはなしてく
れたんだそうだ。
こうしておばあちゃんとおにいちゃんはだんだんなかよくなっていった。

たけしおにいちゃんはあいかわらずおとなしかった。それでももう、あめだまをだまって
ポケットにいれるようなことは1かいだってなかった。
おにいちゃんはだんだんおみせにこなくなった。きょうはほんとうにひさしぶりだったん
だ。

「おみせのものをとったのは、わるいことや。でも、こどもがわるいことをするときは、
なにかわけがあるとおもうんよ。おばあちゃんはそのじけんがあるまで、たけしくんの
こえもきいたことがなかったんや。たけしくんは、『ぼくは ここにいるよ』っていいたか
ったのかもしれへんね」
おばあちゃんのめは、おみせのあめだまみたいに、きらきらひかっていた。
「きょうのたけしくんはたのもしかった。おばあちゃんもげんきがもりもりわいてきたわ」

ぼくは、おみせのにんきのひみつがだんだんわかってきたよ。
おばあちゃんのおみせ、ちいさいけど、とってもとってもおおきくみえるもん。