団体貸出



「竜の真珠」
松尾 順一

 

二匹の竜の子どもがいました。
「竜はこの世の中で一番、強くて、一番、立派な生き物なのだよ」
竜の子どもは母親の竜にそう教えられていました。

ある日、二匹の竜の子どもはけんかをしました。
「どうだいぼくの角のりっぱなこと。ぴかぴか光って宝石のようだよ」
「どうだい僕のつばさの強いことといったら、ひとふりで小さな竜巻がおこるんだよ」
「ねぇ、どっちがりっぱで強い竜だと思う」二匹は母親の竜に聞きました。
「ぼくだよねえ」「ぼくだよねえ」
二匹はいっしょに言いました。

「一番、りっぱで強い竜は、竜の真珠というものをもっているのよ」
母親の竜は言いました。
「それはどこにあるの」
「千年森の奥にはえているブナの木にきいてごらん」
母親の竜は笑って答えました。
千年森は大昔からつづく大きな大きな森でした。
二匹はやっとの思いで大きな一本のブナの木をさがしました。

「ブナの木さん、竜の真珠はどこにあるのですか」
「どうしてそれを知りたいんだい」ブナの木がたずねました。
「ぼくは一番、立派な竜になりたいんです」
「ぼくは一番、強い竜になりたいんです」
二匹は角をふり立てて、翼をはためかせて答えました。

「足もとをよく見てごらん」
ブナの木はほほえんでいいました。
見るとそこには今年、芽をだしたばかりの小さな小さなブナの芽がありました。

「なんて小さいんだろう」
  二人はびっくりして言いました。
その時、日ざしが、さし込んできました。
光りかがやいているブナの芽はそれはとてもとても美しく、どうどうとして見えました。
二匹の竜の子はなぜかだまってしまいました。そしてただ見つめていました。
「なんて立派なんだろう」
「なんてきれいなんだろう」
思わず二匹は言いました。
「おや、これはなんだろう」
「おや、これはなんだろう」
その時、小さな宝石のようなものが地面にこぼれました。
それは二匹の目からこぼれていました。
「それが竜の真珠だよ。一番強くて一番りっぱなものは一番優しくて、一番美しいものが
わかるのだよ」
  二匹はおたがいの顔を見ると、少しはずかしそうに笑いました。
  そしていいました。

「君はりっぱだねぇ」
「君は強そうだよ」

二匹は角でたおれた木をおしのけ、翼で風をおこして落ち葉をきれいにしました。

ブナの大木とブナの芽はとてもうれしそうでした。

二匹は仲良く母親の竜のもとへ飛んでいきました。