団体貸出



「ありがとうリリ」
川場 愛

 

ドキドキ・ドキドキ・・・
この音は何の音でしょう?この音はね、さっちゃんの心の音だよ。
「さっちゃん、それじゃあ教室に入るよ。自己紹介がんばりましょうね。」と、さっちゃん
の隣りに立っていた先生が言いました。
「うん」
ガラガラ・・・
「さあ、みなさん、今日からお友達になる、さちこ・ウォーマンさん、ニックネームは、
さっちゃんだそうよ。さっちゃんはね、お父さんがイギリスの人でお母さんが日本の人な
のよ。だから、この前までイギリスに住んでいたの。みんな仲良くしましょうね。」
いよいよ、さっちゃんの番がやってきました。
「みなさん初めまして、さちこ・ウォーマンです。よろしくおねがいします。」
さっちゃんは一生懸命に覚えたばかりの日本語であいさつをしました。
パチパチと拍手に 向かえられたさっちゃんが席についたその時、後ろの方から声がしました。
「本当にへたくそな日本語だよね、それにあの髪の色、ダッサーイ。私達は三人グループ
だから仲良くするのやめようよ。」といったヒソヒソ話がちらほらと聞こえてきます。その
日からさっちゃんには、一人もお友達ができません。
  シクシク・シクシク・・・
この音は何の音でしょう?この音は、毎日、学校から帰ったさっちゃんが泣いている声の
音だよ。そんなさっちゃんは、ある日の夜、お星様に、いっぱい、いっぱいのお願いをし
ました。すると、
「泣かないで、さっちゃん。私が来たから、もう大丈夫よ。」と、お空からキラキラと輝き
ながら降りてくる何かがさっちゃんに言いました。おもわず、びっくりして目を丸くした
さっちゃんがたずねました。
「あなたはだあれ?私のことを助けてくれるの?」なんと驚いたことに、お空からさっちゃ
んのもとにやって来たものは、身長10pくらいの光輝く妖精だったのです。
「私は妖精のリリよ。さっちゃんのお手伝いをしに来たの。リリは魔法が使えるんだから。」
「すっごーい。さっちゃんね、お友達がいーっぱいほしいの。一人はさみしいの。あとね、
あとね、」
さっちゃんは言葉がつまって出てきません。
「まかせて、リリがなんとかしてみせましょう。じゃあ、今日は笑顔の呪文ね。ミラクル
スマイルオトズレヨ♪さぁ、これでもう、さっちゃんは、飛びきりかわいい笑顔ができる
よ。明日、学校でためしてみようよ。」
「うん、でも本当に大丈夫かなぁ。」
  翌日、二人は一緒に学校へ行きました。大丈夫!! リリはさっちゃん以外の人には見えませ
ん。その日、一日中さっちゃんはリリの合図で飛びきりの笑顔をふりまいていました。す
ると、お昼にある女の子が、さっちゃんに話しかけてきたのです。いっしょにお弁当を食
べようと誘われたのです。二人はうれしくて毎日、呪文を練習し始めました。その夜は、
かわいくウインクができる呪文、次の夜は、自分から「おはよう」が言える呪文。そうす
るうちに、毎日さっちゃんには少しずつお友達が増えつづけ、いつのまにかクラスの人気
者になっていました。
「ねぇ、リリ、私ね、もっと日本語がうまく言えるようにしてほしいの。」と言うとリリは、
「ごめんね、それはできないの。本当のことを言うと、リリは魔法使えない。ウソなの。
さっちゃんが今まで自分でがんばったからだったんだ。だからさっちゃんはもう一人でも
大丈夫。リリは、お友達になりたくてお星様から降りてきたの。でも、そろそろ帰らなく
ちゃ。あっ、リリねぇ一つだけ分かった事ある。さっちゃん自信を持って!! 髪や肌の色も、
生まれた国も、言葉の違いも関係ないよ。だってさっちゃんはさっちゃんで、一人しかい
ない人間だもん。みんな一人ひとり違う所がいい所なんだよ。リリは、もう安心できるよ。
ずっとお星様からリリはさっちゃんのこと応援してるよ。バイバイ、さっちゃん。」そう言
い終えるとリリの姿は消えてしまいました。
「リリィ・・・ありがとう。」
さっちゃんは泣いていたけれど、もう前の泣き虫さっちゃんとは違います。そしてさっち
ゃんは心に誓いました。(私だってやれば出来る。もうクヨクヨした私とは違うんだから。)
  ワクワク・ワクワク・・・・
さあ、今度は何の音でしょう?
そう、この音はさっちゃんの心の音。さっちゃんは今日か
らの学校を楽しみにしていたのです。
ガラガラ・・・
「みんな、おはよう!!」